介護疲れや施設費の負担を理由に離婚できるのか?

1.はじめに:増え続ける「介護離婚」の現状と背景

近年、少子高齢化が進む中で、配偶者や義両親(配偶者の親)の介護に疲弊し、離婚を選択する「介護離婚」が増加しています。

厚生労働省の調査によると、要介護者と同居している主な介護者のうち、約7割が女性であるというデータがあります。

特に「子の配偶者(いわゆる嫁)」として義両親の介護を一人で背負い込み、心身ともに限界を迎えてしまうケースが後を絶ちません。

「夫が全く介護に協力してくれない」「懸命に介護しても義両親から感謝されず、文句ばかり言われる」「施設に入れるための費用負担で揉めている」といった不満が積み重なり、夫婦関係そのものが破綻してしまうのです。

本記事では、介護疲れや施設費の負担を理由に離婚が法的に可能なのか、またその際のお金の問題や注意点について詳しく解説します。

2.そもそも義両親の介護をする法的な義務は誰にあるのか?

「長男の嫁だから親の介護をして当然」という古い価値観がいまだに残っている家庭もありますが、法的な観点から見ると、妻(または夫)に義両親を介護する義務は原則としてありません。

民法において、扶養義務(生活を援助し、介護する義務)を負うのは「直系血族(親や子、孫など)」と「兄弟姉妹」と定められています。

つまり、義両親の介護義務を負うのは、配偶者(夫または妻)やその兄弟姉妹であり、直接血のつながっていない配偶者には法的な介護義務はないのです。

ただし、例外として「義両親と同居している場合」や「義両親と養子縁組をしている場合」などは、扶養義務が生じることがある点には注意が必要です。

3.介護疲れや施設費の負担を理由に離婚はできるのか?

介護を理由に離婚できるかどうかは、「相手(配偶者)が離婚に同意しているかどうか」によって結論が大きく変わります。

① 夫婦双方の合意がある場合(協議離婚・調停離婚)

夫婦の話し合い(協議離婚)、あるいは家庭裁判所の調停委員を交えた話し合い(離婚調停)によって、双方が離婚に合意すれば、理由が「介護疲れ」であっても何の問題もなく離婚が成立します。

② 相手が離婚を拒否した場合(裁判離婚)

相手が離婚に応じない場合、最終的には離婚裁判を起こして裁判官に離婚を認めてもらう必要があります。

裁判で離婚が認められるためには、民法で定められた「法定離婚事由」が存在しなければなりません。

単に「介護が辛い」「施設費の負担が重い」という理由だけでは、直ちに法定離婚事由には該当しません。

しかし、介護をめぐるトラブルが原因で夫婦関係が完全に壊れてしまった場合、「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するとして離婚が認められる可能性があります。

例えば、以下のようなケースです。

・妻が一人で過酷な介護をしているのに、夫が一切協力せず、暴言を吐く(モラハラ)
・介護の押し付け合いや施設費の負担をめぐる対立から別居に至り、長期間(概ね3年〜5年程度)別居状態が続いている
・妻が介護で苦労している最中に、夫が外で浮気(不貞行為)をしていた

4.介護を理由とした離婚が認められにくいケース

一方で、介護を理由とした離婚請求が裁判所で退けられるケースもあります。

代表的なのが、介護を配偶者に丸投げしている側(例えば、専業主婦の妻に自分の親の介護を任せきりにしている夫)から離婚を請求する場合です。

過去の裁判例でも、「長年、育児と夫の親の介護を担ってきた妻に対し、夫からの離婚請求を認めることは、妻を経済的・精神的に過酷な状況に追いやるものであり、著しく社会正義(信義則)に反する」として、離婚請求が棄却されたケースがあります。

5.施設費や介護費用をめぐるトラブルと対処法

親の介護において、自宅での介護が困難になり老人ホームなどの施設へ入所させる場合、その「施設費の負担」が熟年離婚における大きな争点となります。

① 離婚後の施設費の負担と連帯保証

離婚が成立すると姻族関係は終了するため、配偶者の親に対する扶養義務は消滅し、原則として離婚後に義両親の施設費を負担する法的な義務はありません。

しかし、婚姻期間中に夫婦の共有財産から施設費を支払っていたり、義両親の施設入所時に配偶者が「連帯保証人」になっていたりする場合は深刻なトラブルになります。

連帯保証人になっている場合、離婚したからといって自動的に保証人から外れるわけではありません。

離婚協議の段階で、施設側と交渉して連帯保証人を実子などに変更する手続きを確実に行う必要があります。

② 慰謝料は請求できるのか?

「これだけ苦労して介護したのだから慰謝料を払ってほしい」と思う方は多いですが、単なる「介護の苦労」だけでは不法行為とはみなされず、慰謝料を請求するのは困難です。

ただし、介護の非協力に加えて、DV(暴力)やモラハラ、不倫などがあった場合は、それらの不法行為に対する慰謝料請求が可能です。

③ 介護の苦労は「財産分与」や「特別寄与料」で評価される

慰謝料が難しくても、長年献身的に介護を行ってきた実績は、離婚時の「財産分与(婚姻中に築いた財産を分け合う制度)」において、内助の功として分与割合を通常(2分の1)よりも高く修正する要素として主張できる余地があります。

また、離婚せずに(あるいは離婚前に)義両親が亡くなった場合、無償で療養看護に尽くした相続人以外の親族(嫁など)は、相続人に対して「特別寄与料」として金銭を請求できる制度が民法で認められています。

6.介護離婚で後悔しないための事前対策

介護を理由に離婚へ突き進む前に、心身の限界を迎えるのを防ぐための対策を講じることが重要です。

① 介護サービスの積極的な利用

「家族だけで介護しなければ」という思い込みを捨て、地域包括支援センターやケアマネジャーに相談し、デイサービスやショートステイ、ヘルパーなどの公的介護サービスを最大限活用して負担を減らしましょう。

② 別居という選択肢と「婚姻費用」の請求

どうしても同居での介護に耐えられない場合、まずは「別居」をして物理的・精神的に距離を置くという方法が有効です。

別居期間中であっても、夫婦である以上は生活費を分担する義務があるため、収入の少ない側は多い側に対して「婚姻費用(生活費用)」を毎月請求することができます。

別居によって冷静に夫婦関係を見つめ直し、長期間の別居実績ができれば、将来的に裁判離婚も認められやすくなります。

7.まとめ:一人で抱え込まずに専門家へ相談を

親の介護問題は、非常にデリケートでありながら、心身の健康と夫婦の経済状況を大きく揺るがす深刻な問題です。

介護の押し付け合いや施設費の負担をめぐって夫婦関係がこじれてしまった場合、当事者同士の話し合いだけでは感情的になり、解決の糸口が見えないことが多々あります。

「法的な介護義務は誰にあるのか」「施設契約の連帯保証をどう外すか」「離婚した場合の生活費や財産分与はどうなるのか」など、複雑な法的課題を整理し、ご自身が不利にならないよう交渉を進めるためには、離婚問題に精通した弁護士に早い段階で相談することが最善の解決策となります。

一人で背負い込まず、ぜひ専門家の力を頼ってください。

介護を理由に離婚をお考えでしたら、是非島・鈴木法律事務所の初回無料相談をご利用ください。

離婚弁護士として多くの案件を扱ってきた経験とノウハウから事案に即した適切なアドバイスをさせていただきます。

執筆者
島武広 
島・鈴木法律事務所 
代表弁護士(神奈川県弁護士会所属)

当サイトでは、離婚問題にまつわるお悩みに対して、弁護士の視点で解説をしています。また、当事務所にて携わった事案のポイントも定期的に更新しています。地元横須賀で、「迅速な解決」を大切に代理人として事件の解決に向けて取り組んでいます。

初回相談は無料でお受けしておりますので、お悩みの方は、お一人で抱え込まず、ぜひ一度専門家にご相談ください。|弁護士紹介はこちらをクリック>>

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